『シックス・センス』の天才子役、ハーレイ・ジョエル・オスメントの成功と失墜
ハーレイ・ジョエル・オスメントは、弱冠11才にしてその名を映画界に知らしめた。ブルース・ウィリスと共演した『シックス・センス』(ナイト・シャラマン監督、1999年)。訴えかけるような繊細な演技と、伝説的なセリフ「僕には死んだ人たちが見えるんだ」は、万国の映画ファンの記憶に刷り込まれたのだった。
もっとも、ハーレイ・ジョエル・オスメントは『シックス・センス』でデビューしたわけではなかった。それ以前にも、コマーシャル出演はピザハットで、テレビデビューはABC放送のドラマ『Thunder Alley』で、映画デビューは『フォレスト・ガンプ』のちょい役で済ませていた(フォレスト・ガンプとジェニーの息子、フォレスト・ガンプJr.を演じた)。
『フォレスト・ガンプ』と同じ年、つまり1994年、オスメントはノーラ・エフロン監督の『ミックス・ナッツ/イブに逢えたら』にも出演しており、翌年に放送が始まったABCのテレビドラマ『The Jeff Foxworthy Show』では1997年の最終回まで完走している。
そして1999年、『シックス・センス』が公開されると、ハーレイ・ジョエル・オスメントの名声は一気に高まることになる。死者の姿が見えてしまう少年の役を好演し、サターン賞若手俳優賞を受賞、アカデミー賞とゴールデングローブ賞のノミネートを獲得した。
なかでもアカデミー賞ノミネートは記録的な出来事だった。オスメントの助演男優賞ノミネートは史上2番目の若さだったのだ(最年少は『クレイマー・クレイマー』のジャスティン・ヘンリー、8才でのノミネート)。ところで、この天才子役はその後どうなったのか?
先回りして言っておくと、11才にしてキャリアのピークを経験した後も、彼が演技の仕事をやめることはなかった。しかしだからといって、この天才子役がすくすくと育ち、ハリウッドスターとして順調に成熟する、ということにもならなかった。
2000年、主役を演じた『ペイ・フォワード 可能の王国』が公開されたとき、オスメントはなおも人気の絶頂にあった。共演はヘレン・ハント、ケヴィン・スペイシー、ジョン・ボン・ジョヴィ。この時はまだ、オスメントはハリウッドの今をときめく若手俳優のひとりだったのだ。
そんな彼に目をつけたのが、スティーヴン・スピルバーグだった。スピルバーグは彼を「デイビッド」の役に据え、『A.I.』(2001年)を撮る。「デイビッド」は愛をプログラムされたサイバトロニクス社製の少年型ロボットである。
デイビッドの役は観客の涙を誘い、批評家たちにも好評で、オスメントは2度目のサターン賞若手俳優賞を受賞する。にもかからず、まるでこの映画を一つの区切りとするように、彼のキャリアは迷走を始めるのだった。
同じく2001年、オスメントは映画『ぼくの神さま』でウィレム・デフォーと共演する。ポーランド出身のユレク・ボガエヴィッチ監督が手がけた本作は、ポーランドでは高い評価を受けるもアメリカでは劇場公開されずDVDとしてのみリリースされた。2003年にはコメディ映画『ウォルター少年と、夏の休日』の主演を務める(共演はマイケル・ケイン、ロバート・デュヴァル)が、こちらもそれほど話題にはならなかった。
以後しばらく、映画産業におけるオスメントの貢献はきわめてささやかなものになった。この時期に出演した映画は一本のみ、ラスティ・ゴーマン監督の『Home of Giants』(2007年)、共演はライアン・メリマン、ダニエル・パナベイカー。
映画の仕事がほとんどなかったその時期、つまりおおむね2003年から2010年にかけての時期を、オスメントは何をして過ごしていたのか。実は、アニメ『IGPX』(2005〜2006年)の声優を担当したり、ゲーム「キングダム ハーツ」シリーズの主人公ソラの声を吹き替えたりしている(『キングダム ハーツ』『キングダム ハーツII』『キングダム ハーツ Re:チェイン オブ メモリーズ』『キングダム ハーツII ファイナル ミックス+』『キングダム ハーツ Re:コーデッド』など)。
自動車事故を起こし、酔っ払い運転で逮捕され、ついでに違法薬物所持が発覚してしまうのもこの頃のことである。2006年、オスメントは18才になっていた。
同じく2006年、空いた時間を有効に活用すべく、オスメントはニューヨーク市立大学に入学し、前衛演劇を学んだ。
2008年、ようやく20才になったオスメントは、11月にベラスコ劇場でブロードウェイデビューを果たす。デヴィッド・マメットの戯曲『アメリカン・バッファロー』(1975年)。オスメントが演じたのは薬物中毒の若者、ボブ(ボビー)の役だった。しかし観客の入りは悪く、一週間(全8公演)であえなく終了となった。
2010年、オスメントはインディペンデント映画『Montana Amazon』に出演、オリンピア・デュカキス、アリソン・ブリーらと共演した。彼は本作のエグゼクティブ・プロデューサーも務めている。この作品は映画祭「Big Apple Film Festival」に出品され、最優秀作品賞を獲った。
2011年にはニック・コリロッシ(Nick Corirossi)の短編映画『Sacks West』に参加し(主演はドン・チードル)、2012年には映画『Sassy Pants』で本格的にカムバックを果たした。テレビではこの頃、コメディ番組『エリック・アンドレ・ショー』や『Comedy Bang! Bang!』に出演している。
“カムバック”の後、2014年はキャリアの上でとりわけ重要な年になる。『SEXエド チェリー先生の白熱性教育』、そしてホラーコメディの『Mr.タスク』という全く毛色の異なる二つの映画に出演するのだ。
それ以来、オスメントは脇役としてスクリーンに彩りを添えてきたといえる。『Me Him Her』『アントラージュ★オレたちのハリウッド: ザ・ムービー』(ともに2015年)、『コンビニ・ウォーズ バイトJK VS ミニナチ軍団』『Almost Friends』(ともに2016年)、『Sleepwalker』(2017年)、『Clara's Ghost』(2018年)、『The Devil Has a Name』(2019年)、『Bad Therapy 』(2020年)などに出演。
この時期、彼はある映画で久しぶりに注目を集める。ジョー・バーリンジャー監督の犯罪映画『テッド・バンディ』(2019年)だ。ザック・エフロン、リリー・コリンズ、ジョン・マルコヴィッチが主演した同作におけるオスメントの演技は、批評家からの好意的な評価を受けるに足るものだった。
オスメントの最近の出演作は、デイヴ・フランコ監督の『彼女の面影』である。2023年2月に公開されたこのロマンティックコメディでは、脇役のジェレミーという役を演じている。
テレビドラマに関して言えば、やはり脇役をあてがわれるが、役にあぶれることはなかった。なかでも『The Spoils Before Dying』(2015年)『シリコンバレー』(シーズン4、2017年)、『Future Man』『Teachers』(2017〜2019年)、『ザ・ボーイズ』(2019年)の演技は際立っている。
最近のテレビの仕事には、『コミンスキー・メソッド』(2017〜2021年)。『弁護士ビリー・マクブライド』(2021年)、『秘密結社ベネディクト団』(2022年)がある。
テレビの仕事が忙しいオスメントだが、声優業も継続中だ。最近の声は、『ジュラシック・ワールド/サバイバル・キャンプ』(2021〜2022年)『スペースドギーズ』(2021〜2022年)、『アメリカン・ダッド』(2022年)で聞くことができる。
進行中のプロジェクトには、ゾーイ・クラヴィッツの監督デビュー作となる『プッシー・アイランド』、ニコラウス・グーセン(Nicholaus Goosen)監督の『Drugstore June』、アレクシー・パパスとその夫ジェレミー・タイヒャーの『ノット・アン・アーティスト』(の主演)がある。さらにポッドキャスト配信シリーズ『Blood Weed』と、てんこ盛りだ。
つまり、おそらくは大方の想像を裏切って、現在のハーレイ・ジョエル・オスメントには仕事が立て込んでいる。たしかに、今となっては妹のエミリー・オスメントのほうが有名になった感もあり、多くの人の心ではまだ『シックス・センス』のいたいけな少年が強く残っているかもしれない。しかし、大人になった今もオスメントは意欲的に活動を続けており、出番を用意してくれる制作陣にも事欠かないのだ。