どうして肥満は新型コロナウイルスの重症化リスクを高めてしまうのか

新型コロナウイルスの重症患者には、肥満の人がかなりの数にのぼることは以前から医師たちの間で知られていました。この現象に対する科学的な説明はこれまでなされていませんでしたが、ついにメカニズムが明らかになったようです。スタンフォード大学の研究チームが『ニューヨーク・タイムズ』紙にある仮説を発表したのです。

スタンフォード大学医学部のトレイシー・マクローリン博士とキャサリン・ブリッシュ博士の研究成果をごく簡単に述べるなら、ウイルスは脂肪を「隠れ蓑」として利用することで患者の免疫反応を回避しているということです。

『ニューヨーク・タイムズ』紙における発表の中で、フィリップ・シェーラー博士は「脂肪内で起こる出来事は脂肪内だけにとどまらない」とコメントしています。かなり最近まで科学者たちは脂肪組織の中で何かが起きているとは考えていませんでした。その後、一定の生命活動が起きていることがわかりましたが、どうやらコロナウイルスはそれを利用しているらしいのです。

新型コロナウイルス感染症で死亡、または重症化した肥満患者の脂肪組織について行われた研究によると、ウイルスは脂肪内に侵入し、全身で行われている防衛反応の影響を受けない秘密のアジトとして利用しているというのです。

つまり、ウイルスは人体の防衛機構と戦う「予備兵」を脂肪のなかに隠しているというわけです。そのため、肥満の度合いが高いほど、ウイルスにとって居心地がよいということになります。

また、脂肪はコロナウイルスの休憩所としても使われてしまっています（ただし、これは研究成果を簡略化した表現です）。

「肥満患者の身体では、脂肪が一番大きな臓器です」ジョンズ・ホプキンス大学の心臓の専門家、デイビッド・カッス博士は『ニューヨーク・タイムズ』紙でそうコメントしました。つまり、その中でなにか起これば、全身に大きな影響が出るかもしれないということです。

スタンフォード大学の研究によると、脂肪細胞の中ではウイルスによる炎症があまり見られないのに対し、他の組織内では炎症が発生するということです。

研究で明らかになったもう一つの事実は、肥満患者は後遺症に悩まされる可能性が高いということです。つまり、感染そのものが収まっても何らかの症状が残りうるということですが、後遺症が続く期間にはかなりの個人差があります。

さらに研究者たちは、ワクチン接種および感染者の治療にあたって、患者の体重を考慮する必要があるかもしれないと示唆しています。

いずれにせよ、肥満がしばしば健康問題をもたらすというのは紛れもない事実です。たとえば、肺などの臓器に過剰な負担がかかるほか、糖尿病に至ることも珍しくありません。

そして、この研究によって裏付けられたもう一つの発見は、コロナウイルスが呼吸器系のみならず、全身至るところに侵入する驚くべき能力を備えているということです。このことは感染者が死亡したケースですでに確認されていました：ウイルスは死亡患者の臓器ほとんどすべて（心臓、脳など）から見つかっているのです。

画像：Unsplash / CDC

肥満と新型コロナウイルスの重症化を関連付けるこの研究は、この疫病に対する治療法を改善する新たな道を拓いたと言えるでしょう。すでに一定の効果を挙げている医薬品もありますが、必ず効くわけではありません。

データによると、新型コロナウイルスに感染した場合、肥満患者は通常より死亡率が高いことが示されていますが、これは病院が考慮すべきファクターです。

肥満とワクチン未接種の組み合わせは、新型コロナウイルスのリスクを深刻化させ、時には死をもたらします。肥満が蔓延している米国では、一部の人々が政治的な理由で予防接種に消極的ですが、このことは感染者数や入院・死亡者数をむやみに増加させることにつながっているのです。

健康的なライフスタイルが大切なのは何も新型コロナウイルス対策に限ったことではありません。きちんとした生活習慣と適切な体重管理によって日頃から免疫システムを強化しておけば、どんな病にも立ち向かうことができるのです。