顧客を選ぶ側にたつ高級車ブランド「ブガッティ」:トム・クルーズもお断り
高級ブランドといえば、顧客リストに多くのセレブを加えることを望む場合が多い。しかし、セレブといえどもブランドの権威に関わるような行為をした場合は、ブランドから嫌われてしまうこともある。
その意味で、現在フランスに本社を置く高級車ブランド、ブガッティは、相手がどんなセレブであろうと強気である。同ブランドのイメージにふさわしくない振る舞いをしたセレブに対し、商品を買う権利をはく奪することもある。
1909年の会社設立以来、ブガッティは超高級車ブランドとしてたぐいまれな地位を固めてきた。厳しい審査をパスした人しか購入が許されず、市販車のなかでは随一の最高速度を誇り、非常に希少性の高い車、それがブガッティである。まさに王のための車なのだ。
そのように排他的な車を製造するブガッティであるから、セレブがブガッティを選ぶのではなく、ブガッティがセレブを注意深く選ぶのだ。
それは商売の上でも妥当なやり方である。なぜなら、同社がよくわきまえているように、ブガッティの所有者はそのままブランドのアンバサダーになってしまう。したがって、優良な顧客を選定することは、高級車市場のなかで成長し生き残るためには無視できないことなのだ。
つまり、誰が所有するかも重要だが、誰に所有させないかも同じくらい重要なのである。「この人には売らない」というブラックリストができるのは必然だ。
専門誌によると、ブラックリストに載る人物は年々増えているという。ブガッティの暗黙の掟を侵してしまい、ブランドから永久に追放されてしまった人々。そのブラックリストには誰が載っているのだろう?
トム・クルーズのケースは興味深い。トムはブガッティを所有していたわけではないのだが、『ミッション:インポッシブル3』のプレミアのとき、ブガッティでレッドカーペットにのりつけている。助手席には、当時のパートナー、ケイティ・ホームズを乗せていた。
トム・クルーズは車から降りて回り込み、ケイティ・ホームズの側のドアを開こうとしたが、うまくできない。世間の人々はその様子を見て、すごい高級車なのにドアの開閉がそんなに厄介だとは、といぶかしんだ。ブラックリスト入りはこの一件で決まったという。
有名音楽プロデューサーのサイモン・コーウェルは、2008年にブガッティ・ヴェイロン16.4を160万ドルで購入、その後の6年間で2度ばかり乗ってから2014年にオークションに出品、差額で利益を得たという。サイモン・コーウェルはそのことをエレン・デジェネレスのテレビ番組で語っている。
ろくに乗らず、6年後には売り払ったことを受けて、ブガッティはサイモン・コーウェルをブラックリストに記載、同社の車にもう乗らせないことに決めたという。車情報サイト「autoevolution」が伝えている。
F1ドライバーのジェンソン・バトンは、2009年にブガッティ・ヴェイロンを100万ドル強で購入したが、いざ公衆の前に姿を現したとき、彼は別の車に乗っていた。
結局、彼はわずか2,400kmしか走行しなかったその車を、買った時と同じ値段で売ることにした。このことをブガッティは快く思わず、『スラッシュ・ギア』誌によると、ジェンソン・バトンのブラックリスト入りを決めたという。
米国のラッパー、フロー・ライダーのケースはもっとシンプルだ。このラッパーは、ブガッティ・ヴェイロンを運転中に飲酒運転で捕まったのである。ブガッティは同ブランドに違法行為のイメージがつくことを恐れ、このラッパーには今後車を売らないことに決めた。フロー・ライダーは車にステッカーを貼っており、そのこともブガッティの癪にさわったはずである。