フランスのアパレル会社「カマイユ」が倒産:変わりゆく服飾業界とこれからのキーワード

カマイユが倒産
服飾業界の変化を象徴
ほかのブランドも苦境に
再編の時が迫る服飾業界
経済の悪化
コストが増大
インフレも影響
店舗を訪問する客数も減少
オンライン販売が伸びる
業界全体が不景気ではない
オンライン販売の二つのルート
消費活動に変化が
環境に配慮することが重視される
パタゴニア:持続可能性の追求
Veja(ヴェジャ):生産工程の透明化
中古市場の拡大
多様化する中古市場
ファストファッション
若年層をめぐる競争
スーパーも参入
かつてない活況の高級品市場
板挟みだったカマイユ
業界の明日は?
カマイユが倒産

おしゃれな普段着をお手頃価格で提供していたフランスの服飾ブランド「カマイユ」が昨年8月に倒産手続きを開始、多くの人にファッション業界の変化を感じさせた。

服飾業界の変化を象徴

カマイユは1984年創業。かつて繊維業で栄えたフランス北部の町、ルーベに拠点を置いていた。婦人服に特化した品ぞろえを提供していて、フランス全土に650店展開、2600人ほどの従業員を抱えていた。2018年にはフランスで売られた婦人用既製服のうち10%以上がカマイユー製の服だったほどだ。

ほかのブランドも苦境に

ほかのブランドもカマイユのように苦境に立っているのだろうか? 「Celio(セリオ)」や「C&A」、「Pimkie(ピンキー)」などのブランドも近年経営が苦しいことが知られており、これからさらに倒産が続くこともあり得ると指摘する専門家もいる。

再編の時が迫る服飾業界

かつて盛んだったフランスの繊維業が凋落したように、服飾業界にも再編の時が迫っているのだろうか? データを見るかぎり、業界の未来は厳しそうだ。

 

経済の悪化

さまざまな業界同様、服飾業界も経済的危機に苦しんでいる。インフレやコロナ禍の影響、消費者の変化などの要素があいまって、服飾業界の現在の販売モデルは維持が困難となってきている。

コストが増大

短期的にもっとも影響が大きかったのはコストの増加だ。工場の燃料費や店舗の賃貸料といったコストが増えたことで利益が圧迫され、財政状況が悪化した。

インフレも影響

昨今のインフレの進行は消費者行動の変化という観点からも服飾業界に影響を与えている。光熱費や家賃・食費などの生活費が上昇したことで消費者の可処分所得が減少、服飾にかけられる金額も少なくなった。

店舗を訪問する客数も減少

さらに、そもそも店舗にやってくる客の数も減っている。フランスでは2019年から2022年の間に15%も減少した。これには観光客の減少やテレワークの普及、オンラインショップの一般化などが影響していると考えられている。

オンライン販売が伸びる

オンラインでの販売への転換は以前から見られていたが、コロナ禍によってさらに加速。店舗での販売は2010年代からゆっくりと減少傾向にあったが、オンラインでの販売は2009年には全体の6%だったのが最近では20%にも達している。

業界全体が不景気ではない

全体の数字を見れば、とくに服飾を重要視するフランスのような国では業界全体が不景気というわけではない。だが昔ながらの販売店が撤退しオンラインでの販売が伸長していることからもわかる通り、業界再編がゆっくりと進んでいる。

オンライン販売の二つのルート

オンラインでの販売には二つのルートが存在する。一つはとうぜんブランド自体が運営するオンラインショップで、もう一つはフリマアプリなどを通じた個人間の中古販売だ。

消費活動に変化が

だが、カマイユのような昔からあるブランドが苦境に立たされているのにはほかの理由もある。新たな生産と消費の仕方が出てきて、伝統的なブランドの販売形態が時代遅れになりつつあるのだ。

環境に配慮することが重視される

最近、服を選ぶ際にクォリティや値段だけでなく倫理的・環境的な側面も考慮する消費者がますます増えてきている。環境に優しく長持ちする素材や地産品、社会問題への意識など、生産から販売にいたるあらゆる側面が意識され、そういったポイントをアピールして売り出すブランドも増えている。

パタゴニア:持続可能性の追求

例えば、カリフォルニアのアウトドアブランド「パタゴニア」はバイオ素材やリサイクルした素材を用いた商品を他社に先駆けて展開、消費者に広く受け入れられている。

Veja(ヴェジャ):生産工程の透明化

フランスのスニーカーブランド「Veja(ヴェジャ)」もそういった試みを行っている。ヴェジャでは生産工程を抜本的に改革、天然素材を重点的に使用したりエシカルな生産を推進したりするだけでなく、その改革過程を広く公開し透明性をアピールした。

中古市場の拡大

ファッション業界の再編にはほかの要素もある。エシカル消費などは値段の上昇につながるので、購買力の低下した多くの消費者にとっては無縁の問題でもあった。だが、昨今、中古販売が大きく伸長し、多くの消費者が低価格でおしゃれを実現することが可能になったのだ。

多様化する中古市場

古着販売はかつては専業の古着屋などを中心としていた。だが、低価格ブランド「KIABI(キアビ)」を皮切りに多くのブランドが自社独自の中古販売プラットフォームを作り始めている。

ファストファッション

また、伝統的なファッションブランドはいわゆるファストファッション(最近では中国の「Shein(シーイン)」やアイルランドの「Primark(プライマーク)」など)にも対抗せねばならない。

若年層をめぐる競争

ファストファッションの低価格と素早い商品展開は、とくにそのメインターゲットである若年層顧客を中心に、伝統的なブランドを激しい競争にさらしている。

スーパーも参入

さらに、服飾に限らない大規模小売業まで価格競争に参入してきている。「Lidl(リドル)」や「Aldi(アルディ)」などのスーパーブランドも低価格帯の商品を陳列しているし、「Monoprix(モノプリ)」などの古参スーパーも中古品市場に参入してきている。

かつてない活況の高級品市場

一方で、経済の低迷にもかかわらず高級服市場はかつてなく活発だ。ハイブランドの売り上げの数字が記録的だったのみならず、フランスで生み出された資産価値の割合における高級品部門の割合も非常に高かった。

板挟みだったカマイユ

したがって、カマイユのような中流層むけのブランドは二つの方向から競争にさらされていたことになる。一方では低価格帯における価格競争があり、もう一方では余裕のある消費者がさらなる高級品を求めていたのだ。オンライン販売の流行やエシカル消費の普及がさらにこの傾向を助長した。

業界の明日は?

いまは消費行動がかつてなくセグメント化された時代となった。一方には安さを追求する層があり、もう一方にはさまざまな質や持続可能性を求める層がある。これからの服飾業界はどうなるのだろうか? 正確に予言することは困難だが、デジタル化や倫理、環境、価格競争などが重要なキーワードとなっていくだろう。

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