恋愛をかてに曲を書く:シャキーラの素晴らしい歌詞の世界
Bizzarap(ビザラップ)とシャキーラの曲「Shakira: Bzrp Music Sessions, Vol. 53」がシャキーラの元恋人ジェラール・ピケをあてこすったものであることはファンの間でよく知られている。じつは、シャキーラが元恋人のことを歌うのはこれが初めてではない。自身の恋愛を取り上げた曲はほかにどんなものがあるかみてみよう。
まだ17歳のとき、シャキーラは初めて恋人の裏切りにあう。そして書いた曲が「Antología」で、初の大ヒット曲になった。同曲は1995年に発表され、アルバム『裸足のままで』に収録された。それから28年が経つが、完成度が高く現在でも通用する楽曲だ。
同曲の歌詞には、「君といたせいで3キロは太ったと思う/それは君が甘いキスをせっせと降らせたから」「でも最後に肝心なことを教えてくれなかった/君の愛なしでどうやって生きていけるか、私にはまだわからない」とあり、オスカル・ウジョアに捧げられている。交際は2年あまり続いた。
同アルバムの2曲目「¿Dónde Estás Corazón?」もオスカル・ウジョアに捧げられている。恋人のサポートのおかげで夢を実現することができたという感謝の気持ちが歌に込められている、と言われている。ミュージックビデオに出演しているのもウジョア本人だとか。
1997年、シャキーラは再び恋に落ちる。今回のお相手はプエルトリコの俳優オスバルド・リオス。メディアの注目は2人の年齢差に集まった。当時シャキーラは20歳、恋人は37歳。もちろん2人は歳の差なんて問題にせず、シャキーラはアルバム『¿Dónde están los ladrones?』を作る。
「君がいるから、愛しい人/わたしはにっこり笑えるの/さよならなんて言えっこない/君がいないと生きていけない」と、アルバムの2曲目「Tú」のロマンティックな歌詞は続く。が、歌に込められた真摯な思いもむなしく愛は途絶え、恋のキューピッドがすぐさま次の矢を放った。
2000年、シャキーラは企業家のアントニオ・デ・ラ・ルア(アルゼンチン元大統領フェルナンド・デ・ラ・ルアの息子)との交際をスタートさせ、これがいまのところ最も長続きした恋愛になっている。シャキーラはその間に一番有名なアルバム『Laundry Service』を吹き込む。
アントニオと安定した関係をはぐくんでいたシャキーラは、愛の遍歴をふり返る讃歌「Suerte(Whenever Wherever)」を書く。2人が一緒になるためにさまざまな障害を(シャキーラはコロンビア出身なので、地理的にも)乗り越えなければならなかったことが歌われている。
「運良く君は南部で生まれた/距離なんてあってないようなものね/運良く君とめぐり逢えた/異国の土地が好きになったわ/君のほくろを数えるために/わたしはアンデスの山もよじ登ろう/君といっしょに人生を味わう/幸せなときも災難なときも」。アルゼンチン出身の恋人への愛が、歌詞の下敷きになっている。
「Underneath your clothes」では、2人でいることの幸福が歌われている。「君の服の向こうには/尽きることのない物語がある/わたしの選んだ人がいる/それはわたしのテリトリー/いい子でいるから、好きにしちゃって構わないよね」。
ふたたびシャキーラは恋人をビデオクリップに登場させる。アントニオ・デ・ラ・ルアはキスと愛撫でいっぱいのロマンチックシーンを演じ、当時の恋の幸せを伝えている。
幸せは11年あまり続いた。その間にシャキーラは満を持して「Día de Enero」を発表する。
「いろんなところで傷をこしらえてきたんだね/わたしの愛はそういう傷によく効くんだ/悲しい心をゆっくり溶かして/出来立てほやほやにしてあげる/つらいこともいずれ終わって/ほらすぐにまた太陽が輝く」。この曲でシャキーラは恋人を元気づけているとされている。アントニオの祖国アルゼンチンは2000年から2001年にかけて深刻な金融危機に直面し、アントニオの父も大統領を辞職せざるをえなかった。
2010年、アントニオとの仲が終わったことをシャキーラは認める(その前に彼女はジェラール・ピケと知り合っていた)。長い関係の終わりにあたり、シャキーラは別れの歌を録音する。「Lo Que Más」はレパートリーの中でもかなり悲しい部類に入る曲だ。
「君と別れるのがどんなにつらいか/神様だけが知っている/君の寝顔を見つめて思う/もう君を起こすこともないんだと/今日、わたしの希望はからっぽになった/2人の貯えをかき集めても、もう足りない」。この歌詞はアントニオとの関係が終わりを迎えたことを踏まえている。愛が冷めた理由は彼の浮気で、『ラ・バングアルディア』紙によると、マリーナ・ガジョという若い一般女性との関係が噂された。
ジェラール・ピケとの婚約はようやく2011年3月になって発表されたが、2人の出会いは2010年のワールドカップがきっかけだった。シャキーラは2010年サッカーワールドカップ・アフリカ大会のテーマソング「Waka Waka」を歌っている。
この一度聴いたら忘れられない陽気な曲のビデオクリップを撮影するにあたり、スペイン代表からジェラール・ピケが参加した。2人は撮影中に恋に落ちたと言われている。
ピケはシャキーラとのツーショットをネットに投稿し、2人の関係を公にした。写真には「僕の太陽を紹介します」というごく短いテキストがつけられた。
ピケとは幸せいっぱいでよかったのだが、元カレのアントニオが訴訟を起こした。これにはシャキーラも心中穏やかでなかったようで、その動揺が「Sale el Sol」に歌われている。
「わたしはさんざん泣いて君にすがった/そうするよりほかなかったから/100年続く不幸はないし/そもそも体が耐えられない/最高なのはいつもこれから/いつの日にか嵐がやんで/思いがけなく陽が昇る/足し算だけでは計算が狂っちゃう/1足す1がいつも2になるとは限らないから」。アントニオとの関係の解消を踏まえ、その上で新しい恋人ジェラール・ピケへの感謝の気持ちが歌われている。
ピケとの蜜月が実を結び、シャキーラはその愛にインスピレーションを得た曲「Me Enamoré」を完成させる。曲のビデオクリップはバルセロナで撮影され、2017年に公開された。2人の間にはすでにミランとサシャという子どもができていた。
「子どもは10人つくろうよ/まず手始めに2人つくる/なんて、言ってみただけ/あんがい君もやる気だったりして」「君を知った夜、わたしの人生は変わりはじめた」「わたしは恋をした/彼も独りだと知り、えいやと飛び込んだ」。ジェラール・ピケの魅力の前にあっけなく屈してしまったことが歌われている。当時2人の生活は正真正銘の愛によって営まれていた。
だが、これまでの恋愛と同じように、ピケとの結婚生活も円満にはいかなかった。2022年にシャキーラは新曲「Te Felicito」を発表する。ピケとの破局を歌った最初の曲だ。
「君のためなら、わたしは両手を火であぶっても平気だった/なのに君は、替えのきくメガネのようにわたしを扱う/肌の上に傷はなくても/あなたのせいで泣き腫らしたこの目は真っ赤になっている」。ピケとの結婚生活の終わりに生じた最悪のシーンをかいま見させる歌詞である。
ジェラール・ピケと過ごした12年間は、シャキーラに豊富なインスピレーションを与えた。破局から5ヶ月後、新曲「Monotonía」をささげる。
この曲でシャキーラは寸鉄人を刺すというか、物怖じせずに歌詞をつむぐ。「君のことを愛しているけれど、一番大事なのは自分」「昔の2人がどんなだったか君は忘れてしまった」「ナルシストな君はわたしを捨てた」などなど。
ピケとの関係はこれにて一件落着かと思われたが、そこにやってきたのがBizarrapとの新曲「Shakira: Bzrp Music Sessions, Vol. 53」。すでにピケには新しい恋人ができており、浮気の影もちらほらと。とうぜん、この曲の歌詞には真実がたっぷりと詰め込まれ、離婚の暗い側面もあけすけに語られている。
「チャンピオンっていい気なものね/わたしは君を必要としてたのに/あのときはほんと最悪だった」「ぜひとも恥を感じてほしい/自分の行いを噛み締めて飲み込み、また吐き出して噛み締めて」「近所には義母が住んでいて/玄関にはタブロイド紙が押しかけ、家計には借金がかさむ」「女たちはもう泣くのをやめ/請求書を作成する」「体はさんざん鍛えてるけど/おつむのほうはさっぱりみたい」「君はわたしを満たせなかった/だから今、ぴったり釣り合う女の子と一緒にいるのね」。シャキーラの辛辣な歌詞の世界だ。
そろそろネタ切れかと思いきや、シャキーラとKarol Gのコラボで新曲が出るという報せが届く。2月24日リリースの新曲「TQG(Te Quedó Grande)」。期待を裏切らない内容だった。
歌詞はかわらず辛辣で、シャキーラはすでに破局を乗り越えたと宣言しているように聞こえる。こんなフレーズがある:「君は外でお腹を満たそうとする/それって単調だなとわたしは思う」「自分では新しい生活が幸せだと思ってるかもしれないけど/まだわたしに未練があることは彼女さんも気づいているんじゃないかしら」。きわめつけは、「復縁なんて冗談じゃない/君はまったく疫病神/だって今のわたしには祝福の雨が降り注いでいるもの」。