最果てを訪ねる高級ツアー、「エクストリーム・ツーリズム」とは:南極、深海そして宇宙……
潜水艇「タイタン」号の悲劇が注目を集めたのは記憶に新しい。これはベンチャー企業「OceanGate」が企画したツアーで、水深4,000mの海底に沈むタイタニック号の残骸を見に行くというものだった。このツアーには5人が参加しており、そのうちの一人、ハミシュ・ハーディングは極限環境への観光「エクストリーム・ツーリズム」の愛好者として有名だった。
「OceanGate」社のツアーに参加するにあたって、参加者は一人当たり25万ドル(約3,600万円)を支払っている。超富裕層向けの観光ツアーだったというわけだ。
かつて、極限地域に行くことができるのは訓練された探検家や、それぞれの領域の専門家に限られていた。「タイタン」号の乗客だったポール=アンリ・ナルジョレもそういった人物のひとりで、タイタニックの専門家だった。ナルジョレは科学調査という枠組みで1987年以来30回以上もタイタニックの残骸への潜水ミッションを実行してきた。だが、ここ数年、事情が変化しつつある。億万長者たちが極限地域へと関心を向けつつあるのだ。
「OceanGate」社のように、最新技術を用いたユニークな体験を提供するとして、世界の果てや、さらにその向こう側を見せる企業がいくつも出てきている。
観光専門家のナヴェル・シャウィニ博士は仏紙『20 Minutes』にこう語っている:「旅行の大衆化が進み、幅広い層に手が届くようになるにつれ、超富裕層は差別化を試みるようになってきました。大衆とは違う、多くの人には手の届かない経験を求めているのです」
実際、このような極限体験のために巨額の料金を支払える人はごくわずかだし、リスクもついてくるとなればなおさらだ。だが、お金やリスクは払えなくとも、どんなものか知ることはできる。そんな「エクストリーム・ツーリズム」の世界をのぞいてみよう。
「White Desert」社は南極大陸のただなかへの旅行を提供している。旅行中、客はこの会社の提供するリッチなキャンプに滞在することになる。最初のキャンプは南極の「オアシス」シルマッハ高原の湖畔にある。
ふたつめのキャンプは「エコーベース」と呼ばれるサイトにあり、周囲の景色はまるでほかの惑星に来たかのようだ。滞在中はいろいろなアクティビティも提供され、皇帝ペンギンを観察したり、車両での探検やスキーなどができる。この旅行の代金は98,500ドル(約1,400万円)からとなっている。
同社は他にも、ごく短期間で世界を一周するプランも提供している。7大陸にまたがる10の地点を、プライベートジェットを使ってたったの21日でめぐるのだ。気になるお値段は17万8,000ドル(約2,600万円)からだ。
登山家のギャレット・マディソンが興した会社「マディソン・マウンテニアリング」はエベレスト頂上へのツアーを提供している。類似のサービスよりもはるかに快適なのが売りだが、もちろんそれには値段がついている。
ひとり9万3,500ドル(約1,400万円)と非常に高額ではあるが、参加者には非常に快適なベースキャンプが用意されている。お湯の出るシャワーもあれば、おいしい食事も用意されており、映画も見れる。おまけにWi-Fiも完備されている。
宇宙は常に人の心を惹きつけてきたし、それはお金持ちもかわらない。というわけで、宇宙旅行も光の速さで商業化されることとなった。6月29日にはリチャード・ブランソン率いる「ヴァージン・ギャラクティック」社が最初の商業飛行を実施し、イタリアの空軍や国立研究所などから参加した6名を乗せて科学調査飛行に出発している。また、同社は8月には完全に観光目的の飛行も予定している。一度の飛行の定員は6名で、宇宙には90分間滞在、チケット代は45万ユーロ(約7,000万円)からだ。
アマゾン創設者で億万長者のジェフ・ベゾスも「Blue Origin」社を設立して商業宇宙飛行に乗り出している。同社は二年前から宇宙飛行を販売しており、20人ほどをカルマン線(高度100kmのラインのことで、ここから先が宇宙空間と定義されている)の向こう側に送り出している。
イーロン・マスクの「SpaceX」社はさらに先を行っている。2021年9月には早くも4人の乗客を乗せて宇宙空間に行っており、男性2人と女性2人が3日間地球周回軌道に滞在した。この体験のお値段は一人当たりおよそ5000万ドル(約72億円)と、まさに天文学的金額と見られている。
一方、「Triton Submarines」社は宇宙とは逆方向のフロンティア、深海に行かせてくれる。プロが操縦する2人乗りの潜水艇でマリアナ海溝の奥深くを見学することが可能だ。
マリアナ海溝は深海の中でも最も深い場所とされており、水深11,000メートルにも及ぶ。数時間の海溝ツアーのお値段はなんと68万ユーロ(約1億円)だ。
こういった「エクストリーム・ツーリズム」愛好者の代表的存在だったハミシュ・ハーディングは2021年3月にこのマリアナ海溝ツアーにも参加していたほか、「Blue Origin」社が2022年に実施した5回目の宇宙飛行にも搭乗していた。極限を追い求めた結果、今回のような残念な結果となってしまったわけだが、いくら技術が発達しようとも自然の強大さは底知れず、時として命取りにもなるということを忘れないでいたいものだ。