ハリー・ポッター20周年で明かされた秘密
第一作の『ハリー・ポッターと賢者の石』の公開から20年、このシリーズは映画史に刻まれる永遠の名作となった。主役たちはすでに大人になっているが、今も世界の注目を集め続けている。しかも、これまで知られていなかった秘密が明かされるとなれば反響ははかり知れない。
過ぎ去った時間について最も熱っぽく語ったのはルパート・グリント(ロン・ウィーズリー役)。 「妙な気分だよ。もう、そんなに時間が経ってしまったなんて。そして、メンバー一同でまた集まっているんだから…… 月日が経ったのはその通りさ。子供もできたし腎臓結石もできたし、歳を取ったと実感するね」
『20周年記念』のオープニングはエマ・ワトソンが、すでに一同が集結している大ホールの巨大なドアを通り抜けるシーンで始まる。彼女が最初に目にするのはトム・フェルトン(ドラコ・マルフォイ役)で、2人は抱き合って再会を祝福。子役からハリウッドスターへの道を共に歩んだ二人には、特別な関係があるのだ。
この特別番組はシリーズ全体を振り返るだけでなく、キャストや撮影チームへの貴重なインタビューも含まれており、超大作の撮影現場がどんなものであったかを垣間見せてくれる。しかも、驚くべき秘密も明かされているので、いくつか見てゆくことにしよう。
監督が言うには、娘のエレノアに「読むように勧められたけれど、3度断った。『アズカバンの囚人』が出版されたときに、まあ読んでみるかと重い腰をあげたら、すぐに映画のアイデアが浮かんだのさ」
ハリー・ポッター役のキャスティングは難航した。しかし、『デビッド・コパーフィールド』に出演していたたダニエル・ラドクリフが監督に見初められて抜擢。続いて、エマ・ワトソンとルパート・グリントの起用が決定し、ここに主役3人組が誕生したのだった。彼らの世界は一変しようとしていた。実際、配役が公開されると、ダニエル・ラドクリフは彼を追いかけるマスコミを避けるため、家に帰らないようにと忠告されるほどだった。
「興奮しやすく落ち着きがない」子役たちと一緒に仕事をするには忍耐が必要だ。トム・フェルトンのコメントによれば、クリス・コロンバス監督は「子供たちをありのまま受け入れていた」ので、仕事をしている感覚はなかったそうだ。
トム・フェルトンは、セットの間を歩き回る一流俳優たちのことを当時まったく知らなかったと打ち明けた。ダンブルドア校長についても、「リチャード・ハリスがイギリス映画界の花形だなんて知らなかった。ツアーガイドでもしているのかと思っていたんだ」
エマ・ワトソンはロビー・コルトレーン(ハグリッド役)との会話で、撮影メンバーと共に過ごした長い時間について触れた。これに対し、ロビーはまるで「家族」のようだったと答え、「自分の子供たちより君と過ごした時間のほうが長いからね」と付け加えた。
また、この映画の圧倒的なセットは俳優たちを驚嘆させた。ダニエル・ラドクリフはセットについてこう回想している:「僕のお気に入りのシーンは、天井からワイヤーで吊られたろうそくが一斉に輝きながら大ホールに落ちてきたところさ」そして、この信じがたい作品に参加できたことを嬉しく思っているという。
撮影現場には家族のような一体感があふれていた。しかし、トム・フェルトンにとってジェイソン・アイザックスとの共演は、児童文学一の嫌われ者一家にあまりにも現実感を与えるものだった。ひとたびアイザックスが厳格な父親ルシウス・マルフォイ役を演じはじめると、「自分が知る限り最悪の人間になってしまう」からだ。しかし、アイザックスはフェルトンについて、 「出会ったときから素晴らしい子だと思っているよ」と述べている。
ジェイソン・アイザックスは、とあるシーンでトム・フェルトンを泣かせてしまったことが印象に残っているという。このシーンは結局削除されてしまったが、迫真の演技だった。ドラコ・マルフォイが触ってはいけない物に触れたため、父親役のアイザックスが杖で彼の手を叩くシーンだったが、杖が尖っていたためトム・フェルトンは痛みで泣き出してしまったのだ。若き俳優はこの父親役のことをまるで「ジキルとハイド」のようだと言っている。
キャストたちが成長するにつれ、新監督アルフォンソ・キュアロンは彼らを子供扱いするのをやめ、主役三人組に各自が演じるキャラクターについてエッセイを書くよう指導した。もちろん、役について一番よく知っているのは演じる本人たちだからだ。エマ・ワトソンいわく「初めての宿題だった」。
では、その宿題はどうなったのだろう?これについてはルパート・グリントが語っている:「エマはきちんと12ページも書いてきた」一方、ルパートとダニエルもキャラクターに入り込んでいた。ラドクリフはページの半分くらいエッセイを書いたが、アルフォンソ・キュアロン監督いわく「ルパートは宿題を提出しなかった」 のだ。「彼は『だって、ロンは宿題なんかやらないでしょ?』って言ったのさ」けれども、「監督はこの行動が役にぴったりだとわかってくれた」グリントはそう言うと、いたずらっぽく微笑んだ。
惜しまれつつ亡くなったアラン・リックマンは、スネイプの真の目的について早い段階で、J・K・ローリング本人から内々に教えてもらっていたが、誰にも明かそうとしなかった。彼は自分の演技についてキュアロン監督にすら説明しなかったのだ。それについて尋ねらると「後で話します」と答えたという。
思春期のキャストたちにとって『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』の撮影は「ホルモンのピーク」にあたっていた。若者となったメンバーたちはお互いを意識し始めたのだ。もちろん、ラドクリフも緊張していた。 「思春期真っ盛りのキャストに加え、新顔の大集団が2つもやってきたのです。みんな映画を盛り上げるためでした。僕も思春期特有のぎこちなさを演技にぶつけました」
実際、エマ・ワトソンは共演者トム・フェルトンに「恋していた」ことを打ち明けた。 「演技指導の部屋に入ったときのことです」ワトソンは言います。「課題は、自分が思い浮かべる神様の姿を描くことでした。トムはキャップを後ろ向きに被りスケートボードに乗った少女を描いていました」それはまるで彼女にあてたメッセージのようだった。「どういったらいいかわからないけれど、彼に恋をしてしまったんです。以来、毎日コールシートで彼の番号を探すのが日課になりました。彼の番号は7番で、トムの名前がコールシートに載っている日は普段にも増してドキドキしたものです」
「彼(フェルトン)は私より3歳年上だったから、私は彼にとって妹みたいなものだったのでしょう」エマ・ワトソンは懐かしそうにそう語った。一方、トム・フェルトンも、彼女の恋心に応えることができなかったとはいえ、「エマと僕はずっと仲良しだった」と認めている。「たしかメイクルームに座っているときに、誰かが『エマは君のことが好きなんだ』と言ったんだ。それ以来、彼女のことを大事にするようになったし、今でも特別な好意をもっているよ」
エマ・ワトソンがゴージャスなドレスを着てダンスホールに入るのを見て、世界は彼女の成長を目の当たりにすることになった。ワトソンはこのシーンがとても大切であることを知っていたが、それゆえ不安は抑えられなかった。「醜いアヒルの子が白鳥になったようなものです。周りからのプレッシャーはひしひしと感じられました」
監督のマイク・ニューウェルは、神経を高ぶらせる彼女に階段を降りるシーンの演技指導を行わなくてはならなかった。しかし、エマは緊張のあまり、リハーサル中に階段で転んでしまったという。
一方、ダニエル・ラドクリフも、シリーズでベラトリックス・レストレンジ役を演じたヘレナ・ボナム=カーターに熱い恋心を抱いていたことを打ち明けた。若きラドクリフは手紙でヘレナに「僕が10年早く生まれていれば」と気持ちを書き綴ったが、これは単なるお世辞ではなかった。
以来数年間、ヘレナ・ボナム=カーターはラドクリフを幻滅させる方法を考え続けていたが、チャンスは不意に訪れた。ある時、ヘレナは役のためにつけていた入れ歯を外してみせ、数年間一度も掃除をしていないから少し臭うと言ったのだ。
シリーズでネビル・ロングボトム役を演じたマシュー・ルイスは、当時の撮影現場を学校と比較しながらこうコメントした:「みんな恋に落ちて、付き合ったり別れたりしていました。普通の高校生ですよ。違うのは授業科目が黒魔術から身を守る方法だったことくらい」
しかし、彼らにはそれ以上に友情があったのだ。エマ・ワトソンとダニエル・ラドクリフは異性への理解を深めるために協力し合った。「エマと僕は、女と男を理解するためにたくさんメッセージを送りあいました」ラドクリフはそう回想している。
しかし、エマ・ワトソンはシリーズ出演によってもたらされた役柄、名声、経験すべてに押しつぶされようとしていた。そして、映画界とは距離を取ることすら考えていたと言い、「あまりにも有名になりすぎて、家庭にも影響が及んでいました」と打ち明けた。また、トム・フェルトンは「エマは若かっただけでなく、孤独だったんだ」と言って、彼女の苦しみに理解を示した。
「当時書いていた日記を読み返したら、時々孤独を感じていたのだと気づいた」特別番組の中でエマはルパート・グリントにそう語った。 「私は怖かったんだと思う。『これがずっと続くのか』って思うと限界で。あなたはそんなことなかった?」しかし幸い、彼女は仲間やファンのためにどうしてもやり遂げなくてはならないと気付いたのだった。
間の悪いことに、エマ・ワトソンはペットのハムスター、ミリーを撮影中に亡くし、失意の底に沈んでしまった。しかし、ハリー・ポッターの共演者たちは彼女を慰めるため「ビロードが張られ、ミリーの名前が刻まれた特性の木の棺」を贈ったのだ。これは共演者たちの絆を示すエピソードだ。
また、この特別番組はここ数年でこの世を去ってしまった共演者たちを追悼する機会にもなった:リチャード・ハリス、リチャード・グリフィス、ジョン・ハート、ヘレン・マックロリー、アラン・リックマン…… とくにリックマンはラドクリフにとりわけ深い印象を残したようだ。いわく、「僕は伝説の俳優と知り合ったんだ」
『ハリー・ポッターと死の秘宝』にはルパート・グリントとエマ・ワトソンのキスシーンがあったが、舞台裏はまったくロマンチックではなかった。「嫌なことはたくさんあったけど、あれが一番ひどかった」とワトソンは言う。「覚えているのはあなたの顔がどんどん近づいてくることだけ。確か気絶したのよね、私」これに対して、グリントは「君はこの話題になるたびに、まるで怪談みたいに話すんだから」と返した。
画像:YouTube: Ron and Hermione BTS Kiss / HP Wizards Collectio
再会を果たしたエマ・ワトソンはルパート・グリントにこう言った:「何年も会っていなかったけれど、こうして再会してみると、あなたは私の人生を支えてくれていたんだなって」一方、グリントは「しばらく会っていなかったとはいえ、ぼくたちには強い絆がある。これからも大好きだよ」と返事した。そして、「友達としてだけどね」と付け加えるのを忘れなかった。
シリーズ撮影はルパート・グリントにとって「妙な期間」だっただけでなく、他の若きスターたちにとっても想像を絶するものだった。あまりに長い間キャラクターを演じた結果、グリントいわく「自分を見失って」しまったのだ。「自分の本名もしっくりこなくなっていたよ。ロンを演じることしか頭になかったんだ」
しかし、J・K・ローリングはこの特別番組を欠席した。番組中、インタビュー画像は何度か流されたものの、本人は20周年記念イベントに出席しなかったのだ。噂によれば、トランスジェンダーのコミュニティについてソーシャルメディア上で物議を醸すコメントをしたせいで、つよい反発を受けたからだという。
もちろん、原作者が唯一の欠席者ではない。ケネス・ブラナー、ジュリー・ウォルターズ、イメルダ・スタウントン、デヴィッド・シューリス、エマ・トンプソンといった面々もまた、出演を期待されながら姿を現すことはなかった。彼らの姿を眺めるにはシリーズを見直して、なつかしさに浸るのがよいだろう。