セレブファッションが勝訴に貢献?:公判に現れたグウィネス・パルトロウ

スキー事故で訴えられたパルトロウ
注目された公判ファッション
「さりげなく高級なスタイル」
セレブが選んだミニマムスタイル
外見がもたらす説得力
家族でスキー旅行中の事故
リッチなセレブが公判に
地元富裕層に寄り添う
最近話題の“LKRB”スタイル
わかる人にはわかる高級品
富裕層向けのユニクロ「ロロ・ピアーナ」
流行の背景
人口問題とファッションの関係
不平等をごまかす「さりげなく高級なスタイル」
ナポレオンの妻も実践
年配富裕層と若手ミリオネア
「リッチな人々のスタイルを垣間見る機会」
「スキー場での半日をフイにしました」
スキー事故で訴えられたパルトロウ

2016年にユタ州の高級スキーリゾートで男性に衝突したとし訴えを起こされていた女優のグウィネス・パルトロウが、2023年3月下旬に行われた公判に姿を現した。元検眼医である原告が損害賠償30万ドルを要求したのに対しパルトロウは事実を全面否定、1ドルという形式的な損害賠償と弁護士費用を求めて反訴を行っていた。

注目された公判ファッション

損害賠償額がわずか1ドルという裁判だったが、女優からウェルネス事業家にシフトしたパルトロウのファッションについてインターネット上に数多くのコメントが上がったほか、さまざまなオピニオンサイトやファッションサイトにも反響を起こした。いったいどういうことなのだろう。

「さりげなく高級なスタイル」

パルトロウのファッションで最も大きな特徴となったのはおそらく「さりげなく高級なスタイル」ではないだろうか。高級衣料は一線を超えると派手な印象を与えてしまうが、パルトロウはニュートラルな色を選び、ナチュラルなヘアスタイルに控えめなメイクをあわせた。

セレブが選んだミニマムスタイル

公判にあわせたファッションは「ハッピーで」「最先端」なものではないにせよ、ミニマムに抑えた中にも米国セレブの一人であるパルトロウの豊かな経済力を示す要素があふれていた。画像を分析したファッション専門家によれば、足元はセリーヌのブーツで1,200ドル、バッグもセリーヌで1,600ドル、ネックレスは25,000ドル、パンツは895ドル、トップはプラダのセーターで2,220ドルといった具合だ。

外見がもたらす説得力

『ワシントン・ポスト』紙は、パルトロウのこうした外見が自身の主張に説得力をもたらしていたと指摘。

家族でスキー旅行中の事故

公判1日目のファッションは上の画像の通り。自身が展開するブランド「Goop」からおそらく価格500ドル以上のニットを着用、ラグジュアリーな文房具メーカーとして知られる「スマイソン(Smythson)」の100ドルを超えるノートを手にした。

リッチなセレブが公判に

パルトロウはそのファッションを通じて存在感を発揮、自身がリッチなセレブであること、多忙なスケジュールをぬって裁判に臨んだことを印象付けた。実際、パルトロウの弁護士は、原告が訴えを起こした理由の一つは、パルトロウが裕福な有名人であることだとしている。

地元富裕層に寄り添う

『ニューヨーク・タイムズ』紙によれば、裁判が行われたユタ州パークシティの人々はパルトロウの「さりげなく高級なスタイル」が地元富裕層を体現すると考えているという。そして、地元コミュニティに寄り添うことは勝訴の可能性を高めることにもつながるのだ。ここパークシティは州全体でもっとも地価が高いことで知られ、一戸建て住宅の平均販売価格は225万ドル(約2億6千万円)(2021年)となっている。

最近話題の“LKRB”スタイル

富裕層向けのライフスタイルマガジン『タウン&カントリー』誌が“LKRB”(ロウキー・リッチ・ビッチ)と呼ぶ最近のルックは、ファッショントレンドとして重要な位置を占めつつある。ラグジュアリー感を前面には出さず、派手なロゴや刺激的な柄、ビビッドな色使いも封印し、「ファッションを使って自分の存在感を周囲にアピールする必要のない、自己を確立した女性」のためのスタイルだ。

写真:Shiv Roy, 'Succession' by Claudette Barius/HBO (Courtesy of Warner Bros. Discovery)

わかる人にはわかる高級品

ぱっと見は地味であり、高級品であることを示すサインは少ない。だが「わかる人」ならそれがメゾンが発表したばかりの最新コレクションの一部で、かなり高価なアイテムであることはすぐに気づく。こうしたトレンドのキーデザイナーはフィービー・ファイロ、富裕層からの信頼と支持は高いが一般層からの受けはいまひとつだ。

画像:Bof / Instagram

富裕層向けのユニクロ「ロロ・ピアーナ」

こうした「さりげないラグジュアリー」を表現するもう一つのブランドが「ロロ・ピアーナ」。スキー事故の公判に現れたパルトロウもこのブランドのシンプルかつ高価なアイテムを着用したほか、HBOのシリーズ『メディア王〜華麗なる一族〜』のケンダル・ロイも身につけている。ごく当たり前なタートルネックが1,500ドル(約20万円)することもめずらしくない。

写真:「ロロ・ピアーナ」コレクションの発表会に出席したモデルのアイリーン・キム

流行の背景

ファッション専門家が前述の『タウン&カントリー』誌に語ったところによれば、素材と職人技を重視したベーシックかつ洗練されたスタイルは、現在の社会経済的状況の反映にあたる。パンデミック期間中に人々はより快適かつ実用的、そして持続可能性のあるスタイルへとシフトし、世界的な不況に対する不安感からクラシックなスタイルへの回帰が起こったのだ。 .

写真:2023年のマーク・ジェイコブスの発表会でキャッチされたソフィア・コッポラ

人口問題とファッションの関係

「さりげなく高級なスタイル」というファッショントレンドの台頭は、人口統計にも関係するとされる。先進国の多くで高齢化が進んでおり、世界の富の大部分はそうした人々の手に集まっている。先進国に住む富裕層はその年齢からいっても実験的なファッションやトレンドの最先端にはあまり興味がなく、どちらかといえば保守的なスタイルを好む傾向がある。

不平等をごまかす「さりげなく高級なスタイル」

貧富の差が拡大を続ける現代社会では(2022年世界不平等レポートによれば最も裕福な10%の人々が世界の富の76%を手にしている)、さりげないスタイルへの移行は富裕層が「一般ピープル」に溶け込むためのひとつの手段なのかもしれない。ただし、富裕層だけがそれとわかるステータスシンボルを付すことは忘れないようだ。

ナポレオンの妻も実践

「さりげなく高級なスタイル」は今に始まったことではない。19世紀、フランス皇帝ナポレオンの妻ジョゼフィーヌ・ド・ボアルネもそれを実践していた。フランス革命で悲運の死を遂げた王妃マリー・アントワネットとは異なり、ジョゼフィーヌは革命後の宮廷ファッションをあからさまな贅沢スタイルから高級感と職人技にこだわったクラシカルでシンプルなスタイルへと進化させたことは有名だ。

画像:ジョゼフィーヌ・ド・ボアルネの肖像、ウィキメディアより

年配富裕層と若手ミリオネア

このいわゆる「上品な」スタイルは社会階層にも関係すると聞いても意外ではないだろう。米国では莫大な遺産を継いだ人々は自力で富を築いた人々よりも尊敬される風潮があり、そして旧来の富裕層はより「上品」で抑えのきいたスタイルを好み、新興ミリオネアは消費社会を体現するような派手で、ときに批判の対象となるようなスタイルを選びがちだ。

「リッチな人々のスタイルを垣間見る機会」

オンラインメディア『Vox』によれば、公判におけるパルトロウは「リッチな人々がどういったスタイルを選ぶかについて垣間見られる楽しい機会」になったとしている。本記事はパルトロウのいで立ちについて「洗練されたスキー場の犯罪者」のようなものだとし、事故を巡る裁判全体が、富裕層はほかの人々とは異なる存在であることを示す茶番劇のようなものだとした。

「スキー場での半日をフイにしました」

こうした主張を裏付けるものとして記事の筆者は、公判でパルトロウが行ったコメントをあげている。スキー事故がもたらした影響について尋ねられたパルトロウは、「まあ、スキー場での半日をフイにしました」と真顔で答えたのだ。これはのちにバッシングの対象になっている。

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